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心理学ワールド 86号 ここでも活きてる心理学 博物館の現場から―比較認知科学を振り返って 森本 陽(奥州市牛の博物館) | 日本心理学会

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Academic year: 2021

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認定心理士コーナー

奥州市牛の博物館 主任学芸員

森本 陽

(もりもと よう)

博物館の現場から

比較認知科学を振り返って

Profile─森本 陽 2005年,大阪市立大学理学部卒業。 2010年,京都大学大学院文学研究 科行動文化学専攻心理学専修博士 課程単位取得退学。文学博士。同 年に奥州市教育委員会歴史遺産課 学芸員,2014年より現職。  私は「奥州市牛の博物館」の学 芸員として働いています。牛の博 物館では,世界から集めた1000点 以上の資料を展示し,胃袋や骨格 標本から牛の体のしくみを,農耕 や乳利用の道具から牛と人とのか かわりの歴史を紹介しています。  遠足や社会科見学で博物館を訪 れた地元の子ども達は,展示室入 口の黒毛和種の剥製を見上げ,そ の大きさに圧倒されます。「清きよ菊ぎく」 という名のその牛は,オスの牛で あること,こんなに大きいのに, 子ども達より若い2歳半(30 ヵ 月齢)であること,地元前沢の農 家で大切に育てられたことを紹 介します。そして,彼ら肥育牛 は,人によって殺され,その肉は 牛肉となり,我々が食べているこ とを伝えます。小学校低学年ぐ らいまでの子どもは,その事実に 「えっ?」「死んじゃうの?」と驚 いた様子を見せます。牛に対する 「かわいそう」と毎日の「いただ きます」がつながる瞬間。その時 の心の動揺を大切にしたいと思っ ています。  牛は,現代人が最も依存してい る家畜動物であると言っても過言 ではありません。肉,乳製品,革 製品,医薬品など,日常生活のさ まざまな製品がウシ由来の素材で 作られており,相当な注意を払わ ない限り,これらを一切利用せず に生活することは困難です。そ れゆえに,子どもから年配の方ま で,皆に身近な命の問題を提起す るのに牛が適し た素材であると 考えます。人と 動物の関係を自 分ごととしてと らえる入口にな るのです。   大 学 院 生 時 代,比較認知科 学の研究室に所 属 し て い た 私 は,フサオマキ ザルの情動認識を研究テーマにし ていました。素朴な疑問として, ヒト以外の動物は怖れや喜びを感 じているのだろうか? を知りた かったのですが,主観的な感情体 験には科学では踏み込めません。 そこで,フサオマキザルが仲間の 情動表出をどの程度認識している のか,仲間の怖れや喜びについて の心的表象を持っているのか,と いう問いを立てて,主に行動実験 を行っていました。その結果,フ サオマキザルは仲間の表情に応じ て,自身の行動を変化させること を明らかにできました。大学院で の5年間は,動物と接して研究を 行える喜びを感じると同時に,彼 らの自由を科学のために犠牲にす る葛藤を抱える毎日でもありまし た。  現在,私は牛の博物館の学芸員 となり,さまざまなものを人に与 え,社会を支えてきた牛を紹介す ることによって,人と動物の関係 をさらに俯瞰視できるようになり ました。産業動物である牛は,最 終的には人によって命を奪われま す。畜産の現場で働く生産者は, 命の重さを受けとめながら,過剰 な愛着は持たず,愛情を注いで仕 事を全うしています。自身が実験 動物の飼育に携わり,葛藤を抱え た経験は,生産者の牛への姿勢を 理解する助けになりました。  アニマルウェルフェアが畜産現 場に広がる中,動物が感受性を持 つ主体であることが社会に受け入 れられつつあります。人以外の動 物も感情を持つ主体であることが 自明のこととなり,「動物に心があ るか」が問われなくなることが, 人と動物のよい関係にとってひと つの通過点となると思います。  人と自然,人と動物の関係のあ り方は社会が決めていくことで す。それが形成される際に,一人 ひとりが自分とつながっている命 を意識できるよう,私達,牛の博 物館の活動が微力ながらもその一 助になれば,と願います。 牛の博物館の展示室にて 黒毛和種「清菊」の剥製と

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